こんにちは、中野島小児科クリニック院長の池上香です!
今日は当クリニックのHPをご覧いただいてありがとうございます。
当院は2015年に開院し、以来毎日多くの患者様にご来院いただいて本当に感謝しております。小児科専門医として一般診療のほかに各種予防接種や健診を行っており、また近隣保育園の園医や学校医も務めさせていただいております。
しかしながら2024年6月に私自身が子宮頸癌になって子宮を摘出する手術を受けることになり、しばらくお休みをいただいておりました。そのために担当医の交代や診療時間の短縮等、皆様には色々ご不便やご迷惑をおかけすることになり、大変申し訳ありませんでした。またご心配してくださった皆様、本当にありがとうございました。
というわけで、ここで私が罹った「子宮頸癌」という病気についてぜひお伝えしたいことがあります。「そんな病気、あまり聞いたことがないな」、という方もいらっしゃるかもしれません。でも2023年の国立がん研究センター発出の情報では日本国内で年間約1万人の方が発症し(2019年)、約2,900人が死亡(2021年)しています。つまり日本では女性の76人に1人くらい、女子校だったら2クラスに1人くらいは子宮頸癌の患者さんがいる計算になり、女性としては乳癌に次いで多い癌となっております。
残念ながら日本では増加傾向の「子宮頸癌」ですが、実際にはこの病気は「予防できる病気、予防できる癌」です。子宮頸癌になる原因として現在最も影響があると考えられているのがヒューマンパピローマウィルス(HPV)感染です。すでにご存じの方も多いかもしれません。このウィルスは性交渉による感染が多く、国内で性交経験がある方の約50-80%の方が感染している、とされています。つまり2人に1人以上が感染しているわけで、基本的には誰でも感染する可能性があると考えられます。ただ感染したら必ず癌になる、わけでは勿論ありませんので、HPVに感染した人の数に比べれば実際に癌を発症する人は圧倒的に少ない、といえます。とはいえ、どういう人が感染後に癌を発症するのか?などまだわからないことも多いので、ある意味では感染者全員が癌を発症するリスクがある、ということなります。そこでこのHPVウィルス感染症予防のために作られたのがHPVワクチンです。このワクチン接種と子宮頸癌検診を組み合わせることにより子宮頸癌になる人を大幅に減らせることがすでに実証されおり、先進国などでは子宮頸癌の発生は減少傾向となっています。ちなみに日本の子宮頸癌発生率はG7の中ではワースト1位、カナダの約3倍となっています。(ジョイセフの活動とSRHRを知る)
現在日本国内では3種類のHPVワクチンが流通しており、有効性は基本的に同等とされています。日本では2013年より定期予防接種の一つとして女性は小学校6年生から高校1年生になるまでの間は無料で接種ができます。また2025年3月までとなりますが、キャッチアップ接種として平成9年から平成17年度生まれの方は無料で接種ができます。
残念ながら日本ではワクチンの副作用への懸念から、なかなかHPVワクチンを接種する方が増えません。HPVワクチンでは、どのワクチンでも起こりえる一般的な副作用以外に疼痛や運動障害を中心とする多様な症状を認められたことが大きく話題になりました。そのため厚生省も定期接種開始から約8年にわたって「積極的な接種勧奨の差し控え」を行いました。その結果、日本ではHPVワクチン接種者が大幅に減少し、他の先進諸国の傾向に反して、子宮頸がんになる人が増加する、という現象が続いています。
確かに副作用がご心配というお気持ちは十分理解できます。怖いですよね、「接種してもし何かあったら?」と思うと。私だって受けるとなったら怖いと思うかもしれません。ただその後行われた全国疫学模調査では「多様な症状」はワクチンを接種していない方でも一定数存在したこと、また名古屋市の調査でもワクチン接種群と非接種群で症状の発症頻度が変わらないことがわかりました。その他の多くの研究や報告から国内でも世界的にもワクチンの安全性が確認されております。とはいえ、重篤な副反応が起きるリスクは0ではありません。
これは全ての予防接種において共通の考えですが、もしワクチンを接種しなかった場合、副反応や副作用が起きるリスクは確実に回避できます。ただその場合にはそのワクチンで予防できる病気になるリスクはそのまま残る、ということです。子宮頸癌は早期に発見されればすぐ死に至ることは少ないかもしれませんが、それでもまだ若い時に手術で子宮を失うかもしれません。またごく初期に見つかって円錐切除という部分的な手術で済んだとしてもその後は流産などのリスクが高くなってしまいます。だから「まずどのリスクを自分は回避したいのか?」「ワクチンを接種しないことが長い将来にわたってベストな選択と言えるのか?」を考えていただきたいのです。そのためにはワクチンや子宮頸癌という病気についてまず知っていただいて、それから接種するか、しないかを判断していただきたいのです。もしご質問やご心配なこととかあれば、まずお近くのクリニックや病院で「こういうことが不安なんです、心配なんです」と伝えてみてください。それから一緒にワクチン接種について考えられればいな、と思いますし、その上で「やっぱり不安だから受けない」というのも一つの選択だと思います。
最後になりますが子宮頸癌は早期には症状はほとんどないことが多い、とされていますのでワクチンと併せて受けていただく検診もとても大切です。ちなみに私も自覚症状は全くありませんでした。
私が若いころにはまだ日本にはまだHPVワクチンはありませんでした。だから接種できるチャンスがある方にはそのチャンスを逃さないように考えていただきたい、と思っています。ご家族だけでなく、お知り合いの方などで対象と思われる方がお近くにいましたら、「一度病院やクリニックで聞いてみたら?」とお声掛けくださったらうれしいと思います。
今後もより多くの人の健康を守るためにどうしたらよいか、皆さんと一緒に考え続けていきたいので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。
●関連リンク
厚生省HPより
KNOW★VPD VPDを知ってこどもを守ろうHPより
川崎市HPより
国立がん研究センターHPより
動画:子宮頸がんは予防できる病気です(静岡県小児科医会予防接種協議会)